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どうせなら、記憶も消せばよかったのに…。
家族を殺されたという事実が最早、遠い昔のように思える。
それでも……。
涙がこぼれた。
それでも家族が『いなくなった』という事実は常にまとわりつく。
だけど、涙を流して嘆いたところで『事実』は変わらない。
それにこの世界も…悪くない。
次々と出てくる涙を無視してテレビをつけた。
…ああ、そっか。ここはアメリカだもんなぁ。
テレビから聞こえる声は全て英語だった。
理解できるものもあるが、内容を把握するのには不十分どころではない。
確かに英語から『訓練』した方がいいな…。
チャンネルを変えるとカートゥーンアニメがやっていた。
ふと壁に掛けられたデジタル時計を見ると、少し驚いた。
…まだ夕方の四時か…。もう夜中の一時あたりだと思ってたのに…。
時差ボケってのもあるんだろうけど、今まで時間というものが分からなかったからなぁ。
ニュースをつけると、確かに外はまだ明るい。
何が目的か分からないドキュメンタリーを見ていたとき、時計が夜の七時半を指した。同時に部屋中にベルが響いた。
「食事です」
少しぎこちない日本語で女性の声がスピーカーから聞こえた。
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