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一瞬呻き声を漏らして、その老いた男はすぐに動かなくなった。
その老いた男のズボンをあげ、そのまま放置する。
銃のサイレンサーを外し、ベルトポーチの中に差し込んだ。
この方法で『始末』したのは数回目だが、この方法は好きではなかった。
…ターゲットの肛門に銃身を入れて発砲…。
この方法だと、サイレンサーでも抑え切れない発砲音もほぼ抑えられ、しかもターゲットを確実に殺せる。さらに外傷は目立たず、死因を特定するのに司法解剖するまでは分からない。見つかった時点では銃による暗殺とは誰も思わない。
この方法は組織に入ってから一番最初に教えられたが、好きにはなれなかった。
…もっとすっきりと済ませたいものだ…。
ポケットからスライド式の携帯電話を取り出し、静かに告げた。
「完了」
「撤退を始めてください」
「了解」
受話口からの命令に静かに従い、死体を後にした。
豪華な高層ビルにも関わらず、誰にもでくわさずに『仕事』が出来た。警備員は見かけたが、全く気付かれなかった。
ビルからだいぶ離れた所で、停めてあったバイクにまたがり、その場を後にした。
家のマンションに着いたのは午前の3時だった。
二週間後くらいには新聞に
『クレイン社の副社長、銃殺される』
との見出しが躍ることだろう。
ベルトポーチをゴトリとテーブルに置き、サイレンサーをポーチから取り出す。
部品を分解して洗剤を溶かしたぬるま湯に浸けた。
既に日常化した生活。
依頼、準備、実行、待機。
仕事はどれも退屈ではない。
殆どが暗殺などだが、ターゲットはどれも『裏』と関わりのある人物ばかりだった。
既に日常化した生活…。
これが平和とは思わないが、自分には今はこれしかない。
この仕事と組織に『造られた』この身体能力…。
あの事件で奪われたものを紛らすには……。
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