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「ちっ……!」
キンバリーが創り出した強力な波が消滅してすぐに起き上がった。
流石は希少な『水』の能力者と言ったところか……。
「フッ!」
炎を両腕から再度放出し、キンバリーに向けて放つが、キンバリーが自分の周りに水の壁を造り、完璧に防がれる。
「法力の完全解放でこの程度ですか…………。
私の友人の『ジェイド』の方がマシです」
「減らず口を叩きやがって!」
四肢に炎の蛇を纏わせ、接近戦に持ち込もうとする。
ゴゴゴゴゴゴ……!
突然、地鳴りのような大きな音がまわりの空間を支配し、その音を象徴するようにフロア全体が地震のように揺れ動く。
そして、キンバリーがその揺れをまるで操っているかのように腕を指揮者の如く動かしていた。
「言ってませんでしたが、私の能力は水を創り出さなくても使えるんです。
そこに水があれば、ですが」
それを聞いた瞬間、自分の血の気が引くのを感じた。
このフロアの構造は…………。
この空間の下部分には大量の水がプールされている。
壁のいくつものオブジェから吐き出される滝に対し、その分も排出されるという循環方式で水は回っており、絶対的な量は常に一定だが、その量は小さな湖を造れる程だ。
しばらくしてから周囲の腰の高さほどの塀から雪崩のように水が氾濫し始めた。
数十メートル下にあった水全てをここまで運んだと言うのか…………。
しかも、キンバリーの外見に変化は依然となく、平常状態の法力解放のみでこれだけの量の水を操っているのが分かる。
キンバリーが両腕を天に掲げると、全ての水が彼女の上に集結し始めた。
その様子はとても神秘的であると同時に、恐ろしい光景でもあった。
集結し終えた水は惑星のように球形を保っている。
「それでは、さようなら」
キンバリーが掲げていた両腕をこちらに示す。
すると、巨大な水が一気に広がり、フロア全体をスクリューのように包んでいく。
まるで洗濯機の中だ。
「くそが!」
更に限界まで力を引き出し、その炎を全て放ち、水をことごとく蒸発させていくが、その行為は小さな火のついたろうそくを持ったまま、火を消さずにプールに飛び込むことのように無意味に思えた。
「畜生めがあああああ!!!!」
放っていた炎も怒声も全てが目の前に迫る水に飲み込まれ、身体が想像を絶する衝撃によって砕かれていく。
痛みを感じる間もなく、『元世界一の殺し屋』はその生涯を潰されたのだった。
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