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そんな事を考えていると、いつの間にか駅に着いていた。
「何ボーっとしてんだよ、早く行かねーと乗り遅れるぞ」
考え込む綾の顔を、不思議そうに覗き込む龍也。
(アンタのこと考えてたんだよ、バカ)
「別に。てか、ボーっとしてんのは龍也でしょ」
心の中で悪態を吐きながら、改札を通る。
「俺がいつボーっとしてたんだよ」
「ついさっきまで。何さ、朝起きれないくせに!」
同じく改札を通った、やっと目が覚めてきたらしい龍也と騒ぎながら電車に乗った。
二人が通っている学校の最寄り駅は人の出入りが多いから、ドア付近にいないと降りれない。
だからか、龍也は綾をドアの前に立たせ、自分は彼女の前に向かい合わせに立った。
こうすれば中年のサラリーマンたちの目に、綾が入ることもない。入ったとしても、龍也がいるので変なことは出来ない。
そういうさりげない優しさが、たまらなく嬉しかった。
(何気に紳士なことしないでよ……心臓バクバクじゃんか……!!)
綾の心臓は他の人にも聞こえるんじゃないかというくらい高鳴っていた。
(てゆーか近すぎなんだよー! 満員だから仕方ないのかもしれないけど……)
目の前には胸板、顔の横にはバランスを崩さないようにとドアについた手。
たくましい『男の人』のそれに、綾は赤い顔を隠すのに精一杯だった。
しばらくして、最寄り駅に着いた。
(やっとだ……)
綾はうるさい心臓を落ち着かせようと必死なのに、龍也は平然としていて少し悔しくなったのは秘密だ。
(当たり前なんだけどさ、どうせ恋愛対象からも外されてるんだし。でもそれも悲しい……)
龍也の後ろ姿を見ながら、心の中で毒吐く。
「おい、何してんだよ。さっさと行くぞ」
気がつけば、龍也が目の前に立っていた。
「え? 友達と行くんじゃないの?」
「俺いつも遅刻ギリギリだから、一緒に行ってるやつなんていないし」
素直に疑問を口にすれば、返ってきたのはなんとも寂しい答え。
「……寂しいやつ」
「んだとコラ」
そんな風に冗談を言い合いながら学校に行くのは本当に久しぶりで、少しだけ嬉しかったりした。
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