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そこには、自分の顔と名前、それから通っていた学校のことが書かれていた。学生証だ。
「俺は、青山、颯太・・・」
少年―――颯太は、自らの名前をゆっくりと読み上げ、それから何度も颯太颯太と繰り返した。
まるで、大事な事を忘れないように繰り返し呟く子供のように。
自らを認識するうえで大きなファクターを占めるのは名前である。
それを得た颯太は、幾分かマシになった心持ちでくすりと笑った。
先程までの自分の姿を思い出したのだ。
なんのことはない。あっという間に名前がわかったではないか。
これなら他にもなにか・・・そう考えて、颯太は考えを巡らせた。
「学校は・・・そう、終わったんだ。それで帰ろうとして・・・」
思い出せる一番新しい記憶を振り返り、ハッと顔を上げる。
「誰かに呼ばれた・・・」
しかし、それが誰であったのか。肝心な部分が思い出せない。しばらく、あーでもないこーでもないと唸ってみたものの、さっぱり思い出せなかった。
「考えてても始まらない、かな」
颯太は大きくため息をつくと、立ち上がり、軽く屈伸をして痛む部分がないか確かめた。
「まずは、ここがどこだかがわからないと」
森は未だに暗く、よく目を凝らして見れば、見慣れない植物が多く見られる。
「・・・・・」
颯太はゴクリと唾を飲み込むと、意を決して茂みの中へと分け入っていった。
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