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ぼんやりとした光に溢れた開けた空間。
その場所だけが、陰鬱とした森の中で清浄な空気を蓄えていた。
その中心。
緑と、空気と、光の中心にそれはあった。
「…剣…だよな?」
剣。
彼は本物のそれを見たことがなかったが、目の前にあるそれは見間違えようもなく、
「剣だ…」
剣だった。
柔らかな草の合間から覗くさして大きくもない岩に、おそらくは中ほどまでが突き刺さっている。
刀身は冴えわたる銀。
刀でいう鍔にあたるガードは、薄い緋色。そこから伸びる柄も同色。柄尻から垂れる装飾だけが、唯一はっきりと朱に塗られていた。
「………綺麗だ……」
思わず出たのは、そんな言葉。
なぜこんな処に、とか。
ここはどういった場所なのか、とか。
そんな疑問を一切捨て置いて、口をついたのは賛美の言葉。
飾り立てる言葉はいらない。
装飾は目の前にある。
緑が。空気が。光が。
その剣を美しく輝かせていた。
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