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ある男が、ご隠居の家へやってくる所から噺は始まる。
『ご隠居、いますか?』
『おや…お前さんか。まぁまぁ、こっちへ来てお上がり』
言われた男が隠居の家へ上がりこむと、
『あっしは、ご隠居に聞きたい事があるんすよ』
という。
『はて…わしに聞きたい事?何かな』
男は、お茶を飲み一息つくと、隠居に向かって話し始めた。
『さっきまで、町内の床屋で若い者が集まりましてね、バカっ話をしてたんですよ。
ご隠居、知ってますかね。ほら床屋にツルの絵が描いてある掛け軸ってのがあるでしょ?その掛け軸を見てたら一人の野郎が、あっしらに言うんすよ。
【ツルは日本の名鳥なんだぜ】
って……。
そしたら名鳥だ!名鳥じゃない!ってんで意見が分かれちまいましてね。
あっしが、ご隠居に聞いてくる事になっちまったんですよ。
ご隠居、ツルってのは日本の名鳥ですかい』
それを聞いた隠居、男にこう言った。
『うむ…確かにツルは日本の名鳥だな。しかしな、昔はツルと言わなかったのを知っているかい?』
『え!?昔はツルって言わなかったんですか?じゃあ、昔は何と言ってたんです?』
『昔、ツルの事を《首長鳥》と言ったな』
『くびながどり?へぇ…確かにツルは首が長いからねぇ。じゃあ、何でツルって呼ばれるようになったんです?』
隠居は咳払いを一つして言った。
『良いか?これは、ワシとお前の秘密にしておくれ。昔、白髪の老人が浜辺へ立って遥か沖を眺めていると、一羽の首長鳥のオスが
「ツーーーーーーー」
と飛んできて向こうの松の枝にポイッと止まった。続いて首長鳥のメルが
「ルーーーーーー」
っと飛んできて同じ松の枝にポイッと止まった。それを見ていた老人は(あぁ、あれはツルだな)と思った。それで、ツルになったという訳だ。分かったか』
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