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洞窟の前にいる神経質そうな小鬼に後ろ斜めから優しく声をかけたつもりだった。
案の定と言うか、何と言うか。
小鬼はこっちがビックリする位盛大な悲鳴を上げて2~3メートルは飛び上がった。
胸の前で複雑に手を組んでよく判らない念仏らしきモノを唱えているが、このままではラチがあかない。
しかし小鬼と意思の疎通が出来そうなのは収穫と言うべきだろうか。
俺は小鬼をなだめつつ、判る限りの自らのおかれた状況を説明した。
同情されてしまった………。
ド畜生、初対面で同情される謂われはないぞ。俺も同情してやる。
因みにこの小鬼はかなり歳のいったオッサンらしい。
言葉や仕草の端々に人生の疲れみたいなモノが滲み出ているのが哀愁を誘う。
こうして、互いが互いを憐れみ合うと言う奇妙な関係を構築した訳だ。
「よく判らないが、凄い女だな、ソイツ」
しみじみと言う小鬼――マキシーン橘と言う名前らしい――に俺は烏丸君の事を考えていた。
ロクでもないのは確かなのだが、俺の知っていた烏丸君とはどうにも合わない。
俺の知る烏丸君は世の中の総てに興味を持たないクールビューティで誰であろうと歯牙にもかけず、仕事上での付き合いしかないのだ。実際、会社では高嶺過ぎる華とされていたのだった。
会社で話しかけられた時は恥ずかしながら舞い上がったものだ。
顛末はああなった訳で、何故あんな事をしたのか、ついでに何故俺なのか全く判らない。
次に会った時に聞いてみるか。
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