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俺が普通に仕事をしていたら、同僚の烏丸君がやってきて理不尽な事を言ってきた。
何の断りもなく明日から一週間有給を取ってきたらしい。
フッ、俺にも予定はない訳ではないのだがな。
俺と一緒に恋の旅路に出たいのかな?
可愛い女だ、烏丸君。
明日、ある場所に来て欲しいらしい。
いきなり休暇を与えられたので予定は入ってはいない。つーか、俺の予定ではバッチリ仕事中だったのだが。
無茶な場所と時間でなければOKと言っておいた。
場所も時間も問題なかったので、以前大枚叩いて買った一張羅を着て出掛ける事にした。
決して烏丸君にうつつを抜かしている訳ではないぞ!
指定の場所は町外れの貸し倉庫だ。何だか薄ら寒い感じがする。
ま、こ~ゆ~トコでこそ愛の炎はとめどなく高まるのだろう。
お堅い感じのする烏丸君にはいいのかも知れないな。
…………倉庫の中にいた烏丸君は何時も通り綺麗だった。
冷たい印象はあるが整った顔立ちにパリッとしたクリーム色のスーツはいい。
直径1メートル程のトゲ付き巨大鉄球の付いた棒は何だろう?
物騒極まりないシロモノを軽々と抱えている。
見た目は鉄っぽいけど実は軽いのかも知れないな。
「こんにちは、ヰヌヲさん。早速逝って貰いたいのですが」
挨拶もそこそこに直ぐに本題に入る烏丸君。出来る女は無駄は省くものらしい。しかし、場所も判らないし用意も完全とは言えないのでこのまま行かれても困る。
「行くってどこにだい?
外国ならパスポートも必要だし」
「大丈夫です。ちょっと坂道を登って貰うだけですから」
烏丸君は無表情に抱えていた鉄球付きの棒を上段に掲げてとんでもない速さで叩きつけてきた。
とっさに避けたからいいものを、当たったら洒落にならないのは明白だ。
「避けないで下さい、ヰヌヲさん」
「命が惜しいんで誰かて避けるわっ!!」
あんな物騒なモノ避けるなと言うのが無茶だ。
まぁ、避けないのは自殺願望のある馬鹿位だろう。
「なら、こっちにしますか?」
烏丸君の指し示す先には大きめのコップに入った液体が見えた。
妙にケバケバしい緑色のドロリとした液体で、耐え難い悪臭を撒き散らしている。
「………それは?」
「私が調合した、死ぬ程不味い飲み物です」
なんか……さらりと聞き捨てならない事言わなかったか?
毒殺したいのだろうか?
「あぁ、毒物は入っていないですよ。純粋に味で勝負しますので」
俺の心を読んだのか烏丸君は淡々と答えた。
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