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気が付くと坂道だった。
空は今にも雨の振りそうな天気で荒涼と言うしかない場所だ。
所々に枯れ木が生えているのが物悲しさを誘う。
やれやれ、烏丸君も手の込んだ事をするものだ。
日本にこんな場所はあるのだろうか?
相当長い間意識を失っていたのだろう。
服は変わっていない。
ルビーの様な深紅のラメ入りジャケット、細身で裾だけ広い純白のレザーパンツ、鮮やかな桃色のシャツに反り返った爪先が眩しい紫色の革靴と全部きっちり着こなしている。
フッ、こんな素敵なファッションを着こなせるのは俺くらいだろう。
時計を見ると烏丸君と待ち合わせた時間から十分程度しか経っていない。
悩んでいるとジャケットのポケットに何か入っているのに気が付いた。
ポケットの中には手紙が入っていた。
烏丸君からの手紙だ。
俺はとりあえず読んでみる事にした。
「ヰヌヲさん、状況が判らず困惑しているでしょうから簡単に説明します。
あなたは今黄泉津比良坂と言う坂道にいます。
色々思うところがあるかと思いますが何も言わずに頂上目指して登って下さい。
ヰヌヲさんには拒否権はありません。
まぁ、拒否した場合そのまま死んで頂くだけですのであしからず。
頂上に着けたら連絡を入れます。
PS.急がないと有給なくなりますよ」
何だろう、コレは。
黄泉津比良坂は俺でも知っている。
死者があの世に向かうと言う坂道だ。
確か、坂の頂上に死者の国に続く大きな穴が空いていて、死者は穴に向かって歩いているんだよな。
かなり無茶難題な気がするが、今の所帰るアテが無い以上烏丸君の指示に従って頂上を目指すしかない。
辺りは言い知れない物悲しさに包まれている気がする。
此処が本当に黄泉津比良坂なら明るく命に満ち溢れているのはそぐわない事この上ない。
辺りを見回してみた所、かなり遠くに行列らしき人影が見える。アレが死者の列なのだろう。
地面は拳大の石に覆われていて非常に歩き難い。
こんな所を長々と登りたくはないな。兎に角、あの人影の所に行って話を聞いてみるのがベターだろう。
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