坂を登ろう

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歩き出すと体の異変に気が付いた。 身体が物凄く軽くなっているのだ。 走るつもりで地面を蹴ったら拳大の石が爆発した様に飛び散って数十メートルもジャンプしてしまった。 しかも着地しても全然痛くない。 これはアレだ、眠っていた真の力が目覚めたとか? まぁ、目覚めた所で倒すべき敵なんていないし、意味ないんだけどな。 なんだかよく判らないが、予想より早く人影の所に着けそうだ。 嬉しい誤算と言うヤツだろう。   1.5キロ程を一分足らずで文字通り飛んで駆け抜け、人影の所にたどり着いた。 なんか、正に「人影」だった。 服は何一つ身に着けておらず、身体は炭化したかの様に真っ黒で肉が削げ落ちたみたいに細い。 近寄っても全く反応せず黙々と列をなして坂を登っていく。 コレが噂に名高い黄泉津比良坂の死者の列か。 死者達の歩く幅から50センチ位は踏みならされ、歩き易くなっているのが嬉しい。 走ってみて判ったが、やはり拳大の石の上を走るのは疲れる。まぁ、判りきっている事だが実際に身を持って経験すると違うモノだ。 死者達を押し退けるのは難しそうなので身を細めて脇を通り抜ける事にした。   やはりと言うか当然と言うか、足場がいいと出せる速度が断然違う。 あの足場の悪い場所でも時速にしたら90キロ以上出せたのだ。 踏みならされた所なら確実に100キロは超えそうだ。 普通ならこんな無理な速度は身体がついていけないのだが、今の俺の身体はすこぶる軽くて、人の身では有り得ない高速を当たり前の様に爆走していく。 何故こんな高速で爆走出来るかは皆目見当がつかない。 疑問は尽きる事なく何一つ満足な回答は得られないのが現状だ。 だが今の俺の心は「一切の疑問や悩みをかなぐり捨てて思うままに駆け抜けろ」と言う衝動がとめどなく溢れ出てきている。 基本的に俺は自分の気持ちに正直に生きる様に心掛けている。こんな強い衝動は久し振りだし、否定的な要素は見当たらない。 俺は迷う事なく全ての疑問や煩わしい悩みをかなぐり捨てて全力で走り出したのだ。
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