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  低い杭に張られた縄の下から 水面へ爪先をのばしてみる。 薄い氷が音もなく割れ水面を漂う。 過去に人の命を持ち去ったこの池は 私の命も持っていってくれないだろうか。 池を見つめたまま立ち尽くしていた私は 近づいてくる人の気配に気付けなかった。 視界が強制的に回りだす。 真上を飛んでいた鳥と 私の髪の毛が、 暗い色をした雲と空に混ざる。 地球の重力に体を預け、 仰向けに倒れるその直前に 腕を引っ張られたのだと ようやく理解した。    
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