6/7
前へ
/52ページ
次へ
  壊れてしまった世界には 私以外の人がいた。 それも一人ではないのだと 話し声と気配で感じ取る。 会話の内容は、 聞き取る前に終わってしまった。 瞼を細く開かせると、 見慣れた天井があった。 私の住んでいた家だった。 重くだるい体を起こし、 周りの様子を窺う。 畳に腰を落とし、怯えて私から 目がはなせないでいる両親がいた。 顔を真っ青にして、 逃げ出しそうな雰囲気だ。 声も上げられないくせに荒い呼吸は 確かに聞こえる。 実の娘に対して、化け物を見たかのような その反応が少し悲しかった。 「私、何しているの?」 返事など期待していなかったが、 乾きかけた口内から言葉を絞りだす。 母がしゃくりあげる様に 声にならない悲鳴を上げた。 父よりも、誰よりも この状況を理解していないのは 私自身なのに 目線はまだ私に集中している。  
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加