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「…………き……つき……睦月」
呼ばれた声に目を開ければ、ぼやけた視界の中、誰かが睦月の顔を覗き込んでいた。
――オカアサン。
知らぬ間に伸びていた手が、その“誰か”の頬に触れ、それから、
「に、じはら……?」
「他に誰がいるって言うんですか睦月さん」
憮然とした表情でありながら、どこか棒読みな台詞を聞き流し、伸ばした腕をそのまま目の上に乗せ、何となく自己嫌悪に駆られる。
母親に間違えるか普通。
重々しくため息をついて、それから気付く。
乗っかった腕に付いた湿っぽい感触。
目元に感じる水分。
「女々し―」
空気と共に言葉を吐き出す。
気付いたら床で寝ていて、寝顔を見られた上にその顔は泣き顔。最高に気が滅入る。
「今何時?」
腕を目の上に乗せたまま問いかければ「朝の八時」と答えが返ってきて、それからお互いに何も喋ることなく気まずい空気が流れた。
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