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そんな沈黙を破ったのは、白々し程明るく聞こえるインターホンの音色だった。
滅多に鳴る事のない音に、反射的に身を竦ませる。
開けた扉の向こうにいるのはいつだって借金取り。壊されるのではないかと思う程強く叩かれるドアを見つめて、薄暗い部屋で一人、奴らが過ぎ去っていくのを待っていた少年時代を思い出す。
「……睦月?」
いつまで経ってもドアへ向おうとしない睦月に、悠羽が躊躇いがちに声を掛ける。その声で睦月は過去に浸っていた脳を現実へ引き戻す。
わかっている、奴らではないことぐらい。ただ、体に染み付いた恐怖は消えやしないのだ。
ぎこちない動きで立ち上がり、取り付けられた覗き穴から外に立つ人物を確認する。
「……っ!」
一瞬見えたスーツに息を詰まらせる。
ホストになったから来なくなっていたのにどうして。睦月の体に戦慄が走った。
しかし、その顔が見えた瞬間、詰めていた息をゆるゆると吐き出し、そのまま玄関に座り込みそうになる。
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