第二章

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快い風が吹き、葉が赤く染まろうとしている。そんな風景を前にしながら、一人の男性が本を読んでいる。 「また本読んでるの?」 振り向けば一人の女性の姿が映る。それを見て彼は本を閉じた。 言ったのは彼の幼なじみの芳華舞だ。 今は自宅に居るのだが、別に兄弟というわけではない。 訳あって彼がこの家に居候させてもらっている。 「泉も少しは運動したら?ほら、運動の秋と言うし」 「読書の秋という言葉もあるよ? それに僕は運動を必要とする程太ってはいないじゃないか」 そう、どちらかと言うと痩せている側に彼は入る。理由は明白としているのだが… 「運動嫌いなわけではないでしょ?」 「舞と殴り合いを楽しむ気はないよ」 「う~、泉の意地悪~。 あれは剣道っていう立派なスポーツだよ? それに遊びで剣道はしないよ」 舞は子供の頃から剣道をしている中学は女子主将だったこともあり、父親に以外負けたところを見たことがない。 (中学時代毎年全国大会に行っていたような気がする) 舞にしごかれているせいであ・る・て・い・どであるが彼も剣道が出来る。 小学生の時にガキ大将の料を1分も経たないうちに倒してしまってから、男子は彼女を怖がっていて、まともに会話出来るのは彼ということになっている。 痩せているのもこれが原因で、暇があれば稽古に付き合わされる。 「そんなに本を読んでたらそりゃ頭も良いわよね~」 「それとこれとは関係ない気がするけど? 舞が単に勉強しないだけだし」 そうである。中学時代に 「学校以外で勉強する必要が何処にあるのよ」 と言ってのけた人物だ。 「それよりもさ~泉」 「?」 いきなり話題を変えてきた。 まぁ、いきなりとは言うが何となく内容は分かっている。 「今度いつやる、勉強?」 勉強しないのを見兼ねて、舞の母が彼に彼女の家庭教師役を務めて欲しいと言ってきたのだ。 といっても彼女が勉強しているのを(本を読みながら)見ているだけなのだが。 おばさんとしては見張りとしていてほしいらしい。 「僕はいつでもいいよ」 勉強部屋にいるか、自分の部屋にいるかだけなのだから当たり前である。 「じゃ日曜は午前中に部活が終わるから‥‥」 「午後からかな?」 「うんっ」 明日ぐらいは一緒に勉強もしてみるか、と思いながら泉は舞と別れた。 しかしこれが不思議な旅への始まりだとは思いも寄らなかった。     第三章へ
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