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「ジリリリリ…」
いつもの時間に目覚ましが鳴る。
景祐(けいすけ)は不機嫌そうにテーブルの上の目覚ましに手を伸ばした。
「うるさい…」
目覚ましには目を向けずに、右手で探るようにして音を止めた後、何度か寝返りをうちながらようやくアルコールの残る体を起こし始めた。
「ふぅ…」
いつもの様に軽くため息をついてから横に目をやる。亜季(あき)はまだぐっすり眠っている。
そういえば今日は休みだって言ってたな…
亜季との恋人関係は、一ヶ月前に終わっている。それでも俺がここ(亜季の家)にいるのは、仕事もせずに、毎日好き勝手に生活をする。それだけの理由だった。
考えてみれば、亜季もよく文句も言わずに俺をおいてくれてるもんだ。まぁお陰で家賃っていう大きな支払いを気にせずに暮らしていけてるわけだが…
今の俺の毎日といえば、毎朝9時に起きて、近くの喫茶店で朝食をとり、親友の光(ひかる)と開店からパチンコ屋に行き、閉店まで過ごした後二人で夕食をとり飲みに行く。毎日がこの繰り返しだった。
幸い、二人とも月の収支がプラスで落ち着いていたため、特に何の心配もなくこの繰り返しをおくることができた。
「さて、そろそろ行くか…」
まだ眠っている亜季をよそに、俺は部屋を出た。
家を出て少し歩いた所にある大きなスクランブル交差点。俺はここが嫌いだった。同じ場所に立っている人達が、様々な方向へ流れていく。反対側からも、それぞれ別の方向へ歩いて行く。スーツを着たサラリーマンやOL、出前を届けるおじさん、若いカップル。みんな何か自分とは違う気がして…。その中をかきわけて渡るこの道が嫌いだった…。
「おはよう。」
光だ。
「おっす。」
軽くあくびをしながら右手を挙げてみせた。
「飯は?」
「もう食べたよ。」
いつもの挨拶だ。並んで歩き始めると同時に、光が口を開いた。
「お前相変わらずだなぁ。
」
チラッと目だけを光のほうへ向けるが、すぐに前を向き直し、俺は黙っていた。何を言いたいのかはすぐにわかったし、それに対して俺がどう答えるのか、光もわかってたはずだから。
今日はやけに人が多いな…
俺はまた少し不機嫌そうに人混みをかきわけて歩く。いつものパチンコ屋はもうすぐだ。
「今日は?」
光がついてきているのを確認してから声をかける。
「どうしようかなぁ、お前は?」
「行ってから考えるよ。」
何も変わらない、飽きてきた一日がまた始まった。
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