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忘れられない人がいる。
それはモノクロに近い記憶の中で、痛みと共にずっと透明なかけらとして残る、2年前の告白劇。
まだ冷たい大気の感触が心地よかった。
コンクリート造りの簡素な校舎裏に、少し離れて一本の桜の樹が立っている。
細い幹、さらに細い枝…。誰からも見捨てられたような風情。
けれど毎年絶えることなく、しっかりと大地からのメッセージを伝え続けているという。
その姿は、内に秘めた生命エネルギーがまだ尽きていないことの証明なのだろう。
卒業式が終了したばかりの3年生、尾崎嵩宏(たかひろ)さんを僕は呼び出していた。
この時期にしては珍しく、咲きかけの桜の木の下で、深呼吸を何度繰り返しても治まらない胸の動悸に手を焼きながら待ちわびる。
先刻取り付けた約束通り、尾崎先輩は独りで現れた。
本校舎から延びる通路を出て、穏やかな春の陽射しを浴びながら、ゆっくりと歩いてくる。
両手をスボンのポケットに入れ、その瞳に僕だけを捕らえて…。
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