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「で、入るの?」
いつもと変わらない声色にむしろ緊張してくる。
ジーンズのお尻に挟んで、かなりシワクチャになってきた『追跡』を広げ、「入ります」と言う。
「でも」と言いかけた俺を引っ張るように彼女は中に入っていった。
俺はこのシチュエーションに心臓をバクバクさせながらもついていく。「205号室」と俺に言わせ、彼女は手しか見えない人から何かのカードを受け取る。
ズンズンと廊下を進み、部屋番号に明かりの点ったドアを開ける。
入るなり、バサッ、と彼女はベッドにうつ伏せに倒れこんだ。足が疲れた、というようなことを言いながら溜息をついている。
俺はいたたまれなくなって、冗談のつもりで師匠の名前を呼びながらクロゼットや引き出しを開けていった。
枕元の小箱は、開ける気にならない。
風呂場の扉を開けたとき、一瞬、広い湯船の中に師匠の青白い顔が浮かんでいるような錯覚を覚えて眩暈がした。そして湯気のなか、本当に湯が出っぱなしの状態になっていることに気づき、ゾクリとしながら蛇口を閉めた。
サーッと湯船から水があふれる音がする。少し、綺麗な音だった。
これは掃除担当者の閉め忘れなのか、こういうサービスなのか判断がつかなかったが、少なくともそのどちらかだと思うようにする。
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