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部屋に戻ると、彼女がうつ伏せから仰向けになっていて、ドキッとした。
「手掛かりは?」
「髪の毛です」
風呂場でシャワーのノズルに絡み付いていた、かなり色を抜いてある茶髪をつまんでみせる。
長い髪だった。
そのあと、彼女の言葉はなかったのでそれはゴミ箱に捨てた。
「もう出ましょう。……割り勘で」
そう言いながら彼女は身を起こした。俺が払いますと口にしたくなったが、どう考えても割り勘がここからのベストの脱出方法だった。
先払いしていた彼女に2分の1を端数まできっちり手渡し、苛立ちと気恥ずかしさで、俺は(ハイハイ、早くて悪かったね)と頭の中で繰り返しながら彼女より前を歩いてホテルを出た。
自分でもよくわからないが、どこかにあるだろう監視カメラにぶつけていたのかも知れない。
ホテル街を抜けてから、『追跡』を開いた。
「次は、レストランに向かったようです」
順番逆だろ、と思いながら言葉を吐き出した。
昼間のうちにホテルなんて、まるで金の無い学生みたいじゃないか。
いや、まさにその金の無い学生なのだった。あの人は。
レストランまであと50メートルという歩道で、血痕を見つける。
ページの中ほどにその文章を見つけたとき、一瞬足が止まった。そして急いで自転車に乗り、レストランへの途上で血痕を探した。
あった。
街路樹の間。車道が近い。探さなければきっと見落としていただろうそれは、とっくに乾いている。
誰の血だ?
周囲を見るが、夕暮れが近づき色褪せたような雑踏にはなんの答えもない。
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