「追跡」

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ただ、わずか数メートル先から右へ折れる裏道がやけに気になった。車が通れる幅に加え、すぐにまた直角に折れていて見通しが悪い。人ひとりいなくなるのに、うってつけの経路じゃないか。 そんな妄想ともつかない言葉が頭の中に浮かぶ。 念のためにレストランまで行き、師匠の人相風体を告げるが店員に覚えているものはいなかった。デートはここまでだったらしい。 確かに何かが起きている。 「続きは?」 彼女に促されて、ページをめくる。 「タクシーに乗ります」   そして俺は、運転手に「人面疽」を知っているかと聞く。 人面疽? どうしてそんな単語がここで出てくるのか。 困惑しながらも読み進めるが、どうやらこのページはタクシーによる移動の部分しか書かれていないようだ。風景などの無駄な描写が多い。 俺たちはタクシーを止め、乗り込む。 そして運転手に人面疽を知っているかと聞いてみた。40代がらみのその男は、 「いやだなぁお客さん、怪談話は苦手なんですよ」と言って白い手袋をした左手を顔の前で振った後、「ジンメンソはよく知りませんけど、こないだお客さんから聞いた話で……」と、妙に嬉しそうにタクシーにまつわる怪談話を滔々としはじめた。 怪談好きの客と見てとってのサービスなのか、それとも元々そういう話が大好きなのかわからなかなったが、ともかく彼は延々と喋り続け、俺はなにかそこにヒントが隠れているのかと真剣に聞いていたが、やがて紋切り型のありがちなオチばかり続くのに閉口して深く腰を掛け直した。
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