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タクシーは郊外の道を走る。
降りるべき場所だけはわかっていたので、俺たちは座っているだけで良かった。
「人面疽」とは、体の一部に人間の顔のような出来物が浮かび上がる現象だ。いや、病気と言っていいのだろうか。オカルト好きなら知っているだろうが、一般人にはあまり馴染みのない名前だろう。
そういえば、師匠が人面疽について語っていたことがあった気がする。結構最近のことだったかも知れない。
なにを話していたのだったか。ぎゅっと目を瞑るが、どうしても思い出せない。
隣には膝の上に小さなバッグを乗せた彼女が、どこか暗い表情で窓の外を見ていた。
やがてタクシーは目的地に到着する。周囲はすっかり暗くなっていた。
運賃を二人で払い、車から降りようとすると運転手が急に声を顰めて、「でもお客さん。どうして気づいたんですか」と言いながら左手の手袋のソロソロとずらす素振りをみせた。
一瞬俺が息をのむと、すぐに彼は冗談ですよと快活に笑って『空車』の表示を出しながら車を発進させ、去っていった。
どうやら元々が怪談好きだったらしい。
俺はもう二度と拾わないようにそのタクシーのナンバーを覚えた。
「で、ここからは」
彼女があたりを見る。
公園の入り口付近で、街灯が一つ今にも消えそうに瞬いている。フェンスを風が揺らす音がかすかに聞こえる。
俺はペンライトをお尻のポケットから出して『追跡』を開く。
いつなんどきあの人が気まぐれを起こすかわからないので、最低限の明かりはできるだけ持ち歩くことにしていた。
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