「貯水池」

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「貯水池」

大学1回生の秋だった。 その頃の僕は以前から自分にあった霊感が、じわじわと染み出すようにその領域を広げていく感覚を半ば畏れ、また半ばでは身の震えるような妖しい快感を覚えていた。 霊感はより強いそれに触れることで、まるで共鳴しあうように研ぎ澄まされるようだ。僕とその人の間には確かにそんな関係性があったのだろう。それは磁石に触れた鉄が着磁するのにも似ている。その人はそうして僕を引っ張り上げ、またその不思議な感覚を持て余すことのないように次々と消化すべき対象を与えてくれた。 信じられないようなものをたくさん見てきた。その中で危険な目にあったことも数知れない。その頃の僕にはその人のやることすべてが面白半分の不謹慎な行動に見えもした。しかしまた一方で、時折覗く寂しげな横顔にその不思議な感覚を共有する仲間を求める孤独な素顔を垣間見ていたような気がする。
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