「追跡」

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小声で、もう一度呼んでみる。 その瞬間、中からガタンという何か金属製のものが倒れる音がして、「ここだ」という弱々しい声が続く。 蹴られた跡なのか、誰かの足跡だらけの入り口のドアは、すぐ見つかったが、ドアノブを捻ってみてもやはり鍵が掛かっている。 「無駄だ。あいつら何故か合鍵持ってるんだ」という中からの声に、「裏の窓から入ればいいんでしょう」と答えると、師匠は少し押し黙ったあと彼女がいるのかと訊いた。 その通りだと答えたあとで、俺はプレハブの裏に回る。 かなり高い位置に窓はあったが、壁に立てかけられた廃材をなんとか利用してよじ登る。割るまでもなく、すでにガラスなど残ってはいない窓から体を滑り込ませる。中は暗い。何も見えない。口にくわえたペンライトを下に向けると、なんとか足場はありそうだ。錆付いたなにかの骨組みを伝って、下に降りる。 ここだという声に、踏み場もないほどプラスティックやら鋼材やらで散らかった足元に気をつけながら進み、ようやく師匠らしき人影を発見した。 鉄製の柱を抱くように座り込んでいる。
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