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もう会えなくなって、夕暮れの交差点、テレビのブラウン管の前、深夜のコンビニの光の中、ふとした時に思い出すその人の顔はいつも暗く沈んでいる。勝手な感傷だとわかってはいても、そんな時僕は何か大事なものをなくしたような、とても悲しい気持ちになるのだった。
「貯水池の幽霊?」
さして面白くもなさそうに胡坐をかいて体を前後左右に揺する。それが師匠の癖だった。あまり上品とは言えない。
師匠と呼び始めたのはいつからだっただろうか。オカルトの道の上では、何一つ勝てるものはない。しかし恐れ入ってもいなかった。貶尊あい半ばする微妙な呼称だったと思う。
「そうです。夕方とか夜中にそこを通ると、時々立ってるんですよ」
その日、僕は師匠の家にお邪魔していた。築何十年なのか聞くのも怖いボロアパートで、家賃は1万円やそこららしい。部屋の中に備え付けの台所から麦茶を沸かす音がシュンシュンと聞こえている。
「近くに貯水池なんてあったかな」
「いや、ちょっと遠くなんですけど。バイト先からの帰り道なんで」
行きには陽があるせいか出くわしたことはない。
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