「貯水池」

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「高校のプール10コ分くらいの面積に、周囲には土の斜面があってその周りをぐるっと囲むようにフェンスがあります。自転車をこぎながらだと貯水池は道路から見下ろすような格好になって、行きにはいつもなんとなくフェンスのそばに寄って水面を眺めながら通り過ぎてます。それが結構高いフェンスなんです。 けど、帰りにそのこっち側、道路側に時々出るんですよ」 はじめは人がいると思って避けて通ろうとしたのだが、横切る瞬間の嫌な感覚は、これまで何度も経験した独特のものだった。 それは黒いフードのようなものを頭からかぶっていて男か女かも判然としない。 ただ足元にはいつも水溜りが出来ていて、フードの裾からシトシトと水が滴っている。晴れた日にもだ。 (関わらないほうがいい) それは信じるべき直感だったが、かといって道を変えるほど素直でもなかった。 それからはバイト帰りには必ず道の反対側を通るようにしている。といっても1車線の、あまり広いとはいえない道なので嫌が応にも横目で見る形ですれ違うことになる。気分が良いはずはない。 一度師匠をけしかけてみようと虫の良いことを思いついたのだが、どうやらあまり琴線に触れる内容ではなかったようだ。正直に「ナントカシテ」と言うのも情けない。
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