奇形

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「親指が2本になり、左右対象になったわけだ。どんな感じ?」 不思議な感覚だ。落ち着くというか。安心するというか。 普通に両手を合わせるよりも一体感がある。 そのまま上下左右に動かすと特に感じる。 「これは人間が潜在意識のなかで望んでいる掌の形だよ。  左右対象で、両脇の親指が均等な力で物を掴む。  僕はこんな『親指が二本ある幽霊』を何度か見たことがある」 「あれは俺だけに見えていた霊だったと?」 「多分ね。 たまにいるんだよ。生前のそのままの姿でウロつく霊も  いれば、より落ちつくように、不安定な自分を保とうとするように、  両手とも利き腕になっていたり、左右対象の6本指になっていたり・・・  本人も無意識の内に変形しているヤツが。」 師匠はそう言って擬似6本指で俺にアイアンクローを掛けてきた。 不思議な話だった。 そんな話は寡聞にして聞いたことがない。 両手とも利き腕だとか・・・・ 怪談本の類はかなり読んだけどそういうことに触れている本には お目にかかったことが無い。 師匠のはったりなのか、それとも俺の知らない世界の道理なのか。 いまは知りようもない。
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