歩くさん

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僕の畏敬していた先輩の彼女は変な人だった。 先輩は僕のオカルト道の師匠であったが、彼曰く 「俺よりすごい」 仮に歩くさんとするが、学部はたしか文学部で学科は忘れてしまった。 大学に入ったはじめの頃に歩くさんと、サークルBOXで2人きりになった ことがあった。 美人ではあるが表情にとぼしくて何を考えているかわからない人だったので 僕ははっきりこの人が苦手だった。 ノートパソコンでなにか書いていたかと思うと急に顔を上げて変なことを言った。 「文字がね、口に入ってくるのよ」 ハア? 「時々夜文章書いてると、書いた文字が浮き上がって私の口に入りこんでくるのよ」 「は、はあ」 な、何?この人。 「わかる? それが止らないのね。書いた分より多いのよ。いつまでも口に  入りつづけるのよ。そのあいだ口を閉じられないの。私はそれが一番怖い」 真剣な顔をして言うのだ。 当時は電波なんて言葉は流通してなかったがモロに電波だった。 しかしただのキチ○ガイでもなかった。 頭は半端じゃなく切れた。師匠がやり込められるのを度々見ることがあった。 歩くさんはカンも鋭くて、バスが遅れることを言い当てたり、「テレビのチャンネル を変えろ」というので変えると巨人の松井がホームランを打つところだったりした ことがしばしばだった。 ある時師匠になにげなく歩くさんってなんなんですかねーと言ってみると 「エドガーケイシーって知ってるか?」と言う。 「もちろん知ってますよ。予知夢だか催眠状態だかで色々言い当てる人でしょ」 「それ。たぶん、歩くも」
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