宗教都市:メーヴェ・前編

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これを好機と見た私は すかさず男の手の甲を狙い小剣を振り下ろす。   自らの不利を察知した男は長剣を手放し、私の攻撃を躱す。 そして退がりつつその場に有った武器を手に取り 鞘から抜き放つ。   先程まで使用していた物よりやや短い長剣だ。   場所が悪い。 思いの他腕が立つ暴漢を無力化するのに、武器屋程不向きな場所はあるまい。   私は小剣を構え直し、男が鞘を外した瞬間を狙って 今度は私から仕掛けた。   左下から、抜いたばかりの剣身を狙い小剣を叩きつける。 そしてそのまま力まかせに長剣を押し上げた。   男は退がりつつ長剣を構えようとするも、私は剣を合わせたまま前進しそれを許さない。   構えようとして立ててしまった長剣の先が天井に刺さり、後退しようとした男は前のめりに体勢を崩す。   これを狙っていた。   私は素早く小剣を引き、男の胸を左足で蹴り上げる。 そして胸元まで左膝を引き付け、強烈な前蹴りを男の腹に叩き込んだ。   「ぐほぁ!?」   それでも剣を手放さなかった男は、剣ごと吹き飛び店の入り口の床に転がった。   ふと見ると、度重なる戦いの音に引かれ、何事かと見に来た野次馬が軒先に数名。   まずい。 人質に取られると厄介だ。 私は急ぎ男に駆け寄ろうとしたが、男が行動に移る方が早かった。   男は床に仰向けに転がったまま剣を持ち上げ…     自らの首に落とした。   間違い無く致命傷だ。   …私は冷静に飛び退る。 男が放つ命の源は店中を蹂躙し、野次馬達をも包み込む。   あまりの事態に野次馬達は呆然としていた。   無理もない。 高い観戦料だったな。   私は男が事切れているのを確認し、小剣を右手に持ったままだった鞘に収めた。   そして振り返りカウンターに歩み寄る。   「怪我は無いか?」   店内の惨状にやはり呆然としている女主人に私は声を掛けた。   「え…えぇ、大丈夫よ…」   動揺はしているが、その内容に偽りは無い様だ。   私は悲哀の色を滲ませつつ主人に語りかける。   「結果論だが、店内を散らかしてしまって済まない…。 この小剣は私が買い取ろう。」 そう言って全財産である金貨6枚をカウンターに置く。   「…多過ぎるわ。」   「これではしばらく商売できまい。 受け取ってくれ。」   どの道今日中に博物館に行けるとは思えない。   …高い小剣になったものだ…。
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