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それから程なく騒ぎを聞きつけた兵士が三名駆け付けて来た。
野次馬を押し除け、店内に入って来る。
そして店内の状況を認めるなり、一人引き返して行った。
騒ぎの鎮圧の必要は無いと判断し、捜査に必要な道具を取りに行ったのであろう。
残った二人の内一人は遺体を調べ始め、一人が近寄って来た。
「騒ぎの原因は何だ?」
その口調は事務的であり、有りがちな横柄さは無い。
私は主人の用意してくれた椅子に落ち着き、断ったのだが押しつけられたお茶を持ったまま答える。
「わからん。
その男が店に来るなり彼女に斬り掛かったのだ。」
私は正直に答える。
「本当か?」
中年に差し掛かろうかという年令のその兵士は、主人の方を向き確認する。
「ええ、本当よ。」
主人は頷く。
「あの男をやったのはお前か?」
兵士は私に向き直り、顎で男を指しながら言う。
「違う。
無力化して捕らえる為努力したが、観念したのか自害した。
…止められなかった。
すまない。」
言って私は目を閉じる。
だが兵士の反応は予想と反する物だった。
「またか……。」
そう言って考え込む。
私は聞き逃さなかった。
「また、という事は同じ様な事件が他でも起きてるのだな?」
私の言葉を聞いて、兵士は自らの失言に苦笑する。
「参ったな…。
詳しくは話せないが、確かに最近不可解な自殺事件が発生してる。
だが他人に斬り掛かったのは今回が初めてだ。」
「そうなのか…。」
何か引っ掛かる。
あの男は何らかの目的で動いていたとしか思えない。
そしてそれは、最近多発している事件と合わせて考えると、死ぬ事自体が目的であり、それは他人でも自分でも構わないという結論が出る。
だがそれはおかしい。
集団で命を粗末にする事に何の意味があるというのだ。
私が考え込んでいると
兵士が再び話し掛けて来た。
「悪いが調書を取らなきゃいけない。
店の片付けは私たちでやるから、その前に状況の流れを詳しく教えてくれ。」
私は頷き、立ち上がると
最初小剣を選んでいた場所へと向かった。
…調査は日没までかかった。
博物館に行けなかった事は
言うまでもない。
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