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私は余った時間で道具屋に行き、金を手に入れておく事にした。
もしかすると、盗みを働いている少年達の背後関係を探る際に、情報料を必要とする場面があるかも知れないからである。
昨日の事もあるし、暫く金に困らない様にする必要がある。
そう何度も道具屋に通う訳にはいかない。
私は昨日の五倍程の大きさの魔血漿を作り、マレイアに行き先を告げてから家を出た。
今日はマレイアも大聖堂で仕事をする当番の日で出掛けるらしい。
夕食は食べて帰るからとミナに伝えて欲しい、と頼まれた。
私は朝の活気溢れる喧騒と、雲の高い空から降り注ぐ朝日を浴びながら、
昨日と同じ道順で道具屋へと向かった。
今日は幸運にも何も起こらず道具屋へ着き、無愛想な店主に宣伝した旨を伝えた上で今日の大玉魔血漿を手渡す。
さすがの店主も驚いていた。
これ程の大きさになると、逆に使い切るのが大変な位の魔力量である。
一日中魔術を放ち続ければやっと使い切るかどうか、という量である。
しかし当たり前なのだが、その使い方は勿体無い。
もし人間が魔血漿を作り出そうとするならば、部屋に数種類の儀式道具を準備し、小規模の儀式を以て作成する事になる。
時間も手間もかかり、失敗すればその場で砕け散るこの石を、ここ迄大きく作る事は至難の技であり貴重品である。
店主が驚くのも無理は無い。
この石を手に入れれば、高額の取引材料として最適であり、強みになる。
宝物として区別されて然るべき品なのだ。
店主の親父は昨日と同じ様に鑑定し、本物である事を確認すると、探る様な目線で見て来た。
「…いくらで買い取って欲しいんだ?」
私は表情を変えないまま答える。
「…適正であれば、言い値で構わない。」
私は交渉が苦手だ。
投げ遣りな様だが、本心である。
店主にはいい迷惑かも知れないがな。
店主は少し唸っていたが、昨日と同じく奥へと消え、金を持って出て来た。
「金貨五十枚ある。
これでいいか?」
私は頷き、金を受け取ると礼を言って店を後にした。
その私の背中に店主が声を掛けて来た。
「また来てくれ!」
驚いて振り返ると、
あの無愛想な親父が満面の笑みを浮かべている。
良い客だと思われたらしいな。
無理も無いが。
私は軽く頷きまた振り返ると、店を出て帰路に就いた。
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