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小さな教会の左横にある私道、と言うにはやや狭いそこを通り抜けると、家一軒分程の空き地と、その奥に作られた家二軒分程の大きさで二階建の建物が顔を出した。
これがミナの通い詰めているこの街唯一の孤児院
『小羊の家』である。
そういえば雨漏りすると言っていたが、煉瓦作りという事は漆喰の老朽化が考えられる。
漆喰を上から塗って応急処置する手もあるが、人手に余裕があるなら全交換が良いであろう。
見ると空き地に煉瓦や漆喰が準備されていた。
子供達は、今見えるだけで十人位。もう少し家の中に居るのだろう、見えているのは少年達だけであり、ボールを蹴って遊んでいる。
煉瓦を積んであるというのにお構い無しである。
見る見るうちにミナの顔が青ざめて行くのがわかる…。
「ちょっと!?
あなた達!やめなさい!」
そう叫んで駆け出すが、
逆効果だった様だ。
ミナの声に驚いた少年の一人が、ボールのコントロールを間違えてしまった。
…私は目を閉じて現実逃避をしようとしたが、煉瓦の崩れ落ちる大きな音は、それを許してはくれなかった。
泣きだすミナ。
煉瓦が数個割れた事よりも泣かれた事に大慌てする少年達。
…あれは嘘泣きだな。
ミナがあの程度で泣くとは到底思えない。
少年達の良心に訴えよう、という作戦なのはわかるが、
放って置かれた私はどうすれば良いのだろうか?
とりあえずは傍観するしか無いのだが…。
ふと視線に気付く。
少年達は今や二グループに分れていた。
一つはミナに集まり、慰め謝っている集団。
もう一つは私を見つめ、先のミナよりも青くなっている三人組だ。
内一人の顔に見覚えが有る。
あの少年である。
青くなっているのは、私が何らかの報復を狙っていると勘違いしているからに違い無い。
私は不安を和らげてやろうと笑顔を向けてみたのだが、
三人組は体を一度震わせ、相談を始めてしまった。
…逆効果だったか。
丁度その時、大きな音に驚いたのであろう。
中に居た人達が出て来た。
大部分は少女達である。
年は少年達と同じくバラバラ、
そして一人成人男性が混ざっている。
ここの管理者であろう。
まだ若い男で、二十歳前半といった所か。
牧師の格好をしている。
両手に綾取りの毛糸を絡めたまま慌てて出て来た。
「い、今の音は何ですか!?」
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