宗教都市:メーヴェ・前編

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作業が開始された。 少年達は長いハシゴを掛けて次々に屋根の上に登ってゆく、そして手にした道具で煉瓦を剥がしてリュックに詰め、リュックが一杯になると降りて来て煉瓦を捨て、また登ってゆく。 ハシゴが一本しか無い為、手際は良いのだが効率が悪い。   私は屋根の上の進行状況を見る為、体の密度を低くし体重を軽くすると、屋根の上まで跳び上がった。   周りからは空を飛んだ様に見えたであろう。 実際は描く放物線が高くなっただけであり、空を飛んだ訳では無い。 自分の周りの空間を支配すれば空中の移動も不可能ではないのだが、ここは魔力を節約させてもらった。   私の派手な登場に屋根の上の少年達はなぜか拍手で迎えてくれた。 その目は目の当りにした魔術への感動からか、とても輝いている。   私は魔術を使用した訳では無い為、少し申し訳無い気分になりつつ屋根の上を見渡した。   …あまり進行状況は芳しく無い様だ。 想像していたより屋根の上は広く、雨が流れ易い様に鈍角の三角形をしている。 全員で取り掛かってまだ十分の一も外せていない。   このままでは丁度屋根が無くなった頃日が沈むのではなかろうか?   私は少年達を全員屋根の上に上げると、号令をかける。   「今から屋根の煉瓦に魔力を流す。煉瓦を屋根から外したら自動で庭へ飛んでゆく様にするから、お前達は作業に専念しろ。」   私の言葉に少年達は歓声を上げ、作業を開始する。   魔力の消費は激しいが、仕方あるまい。 私は言葉通り屋根の上の煉瓦全てを支配し、漆喰の呪縛を離れた物から順に庭へと飛んで積み重なれと指示を与えて作業を見守った。   作業は一時間半程で終了した。 途中一人足を滑らせて落ちかけたが、私が助ける程では無かった。 それよりも、それを見て慌てて登ろうとしたミナがハシゴから落ちた為助けた。  子供達は笑っていたが、笑い事では無い。もし私が居なかったらと思うと生きた心地がしなかった。   煉瓦を取り除くと、実際の屋根である木の板が出て来た。 こちらは全部ではなく、雨漏りして腐り始めている物だけを交換する。   この時点で夕方になった為、予め用意していた大きなシーツを屋根に掛け、紐で飛ばない様に固定して今日の作業を終了した。   そして一人ずつ降りてゆく少年達を屋根の上から眺めていると、例の少年(話を聞く限りルジャンという名前らしい)が話し掛けて来た。
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