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ルジャンは私を少し怯えながら見つめ、周りに聞こえない様に素早く囁いた。
「あの事先生達には言わないでくれねぇか?」
私は小さく頷き、
「言うつもりは無い。
私の思い出の品を返してくれたからな。
それよりも聞きたい事がある。
時間を作れるか?」
と聞いた。
この様な集団生活を送っている者だと、自由な時間がいつなのかわからないからだ。
少年は少し安堵の表情を浮かべ、
「夜八時に教会の前に来てくれ。」
と言って降りて行った。
これで少年の背後関係を探る事ができる。
後は巧く聞き出せるか、なのだが、流れに任せるしかあるまい。
どちらにせよ私は回りくどい事は苦手なのだから。
私は屋根から沈む夕日の色を眺め、明日の天気が晴れである事を予想してから屋根を降りた。
ハシゴで降りたら文句を言われてしまった。
もっと格好良く降りて欲しかったらしい…。
「魔力が勿体ない。」
と言ったらさらに文句を言われる始末だ。
…全く。
私は大道芸人ではない。
その後家から出て来たエプロン姿の意外に似合うミハイルに夕食に招待されたが、私は夕食を食べない主義なのだ、と言って丁重に断った。
あの人数の食べ盛りを抱えているのだから、私の分を消費する位容易いであろう。
私は一度家に帰る事にした。
孤児院に向かう途中に、ミナに今日マレイアの夕食は要らないと伝えてあるので、ミナは残って夕食をご馳走になる様だ。
いや、私の金をミナが寄付した訳だからご馳走する事になるのだろうか?
どちらでも良いが。
帰り着いたは良いのだが、
マレイアもまだ帰って来ていない上にする事が無い。
八時に待ち合わせという事はあと一時間半後にまた家を出なければならない。
その微妙な時間をどう過ごしたら良いだろうか?
思い出した。
私は居間へ行き、暖炉に火を点けると、次に書庫へ向かい読みかけの本を手に入れた。
そしてまた居間に戻り、暖炉の前に椅子を持って来ると、暖炉の明かりを頼りに読み始めた。
確か祭器を求めて賢者を訪ねる所で止まっているはずだ。
私は止めてしまった勇者達の物語を再び動かす事にした。
今回は時間が短い為、まだ恐らく世界は救えないであろうが、本のこちら側から応援せずには居られない。
私は本に集中した。
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