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山奥に住む賢者の住み処への道程は厳しく遠く、凶悪な魔物も道を塞いだ。
勇者達は傷だらけになりながら、一人も欠ける事無く賢者の元へ辿り着いた。
だが世の中を嫌い、隠遁している賢者は偏屈であり、勇者達を試そうとする。
それは困難な試練である上、魔術の才能が必要な物であった。
それに仲間の魔術師が、旅で魔力を使い込んでいるにも関わらず名乗りを挙げた。
一番適しているのは自分であると言い張って。
勇者達は仲間を信じた。
そして魔術師は、自らの意志で、賢者の用意した空間に突入する。
そこでこの巻が終わってしまった。
柱時計を見ると、まだ少し早い。
私は書庫に本を片付け、
暖炉の火を消すと、少し早いが家を出た。
宿舎区の門の所で疲れた顔のマレイアとすれ違った。
これから例の少年ことルジャンと話してくると伝えると、余程疲れているのか一言がんばって、と言って帰って行った。
マレイアも大変だな。
と思いながらも歩き、教会の前に到着した。
やはり少し早かった様で、まだ来ていない。
ふと足音に気付いた。
一応近くの家の陰に隠れて様子を見ると、ミナであった。
危ない。
言い訳に困る所であった。
いや、この時間に出歩いていた事の言い訳も考えておかなくてはいけないな…。
面倒な事だ。
私は小さく溜め息をついた。
ミナは何やら
「はぁ…ミハイルさん…」
などと言いつつ頬に両手を当てながら帰って行った。
どうやらミナが孤児院に通い詰める目的は子供達だけでは無い様である。
知る必要の無い情報を、不可抗力とは言え手に入れてしまった…。
ミナに申し訳ない。
何だか自分が覗きをしている様な気分になって嫌気がさして来た頃、やっとルジャンが現れた。
私は陰から姿を現し、ルジャンに近づく。
「遅かったな。
来ないかと思った所だった。」
と言うと、
「ごめんよ!
見つからない様に抜け出すのに手間取っちゃってさ。
へへっ。
で、聞きたい事って何だ?
ミナさんならミハイル先生に夢中だぜ!」
私が盗みを他言しない、と言った為か油断している様だ。
あと最後の一言は言い振らして良い事ではなかろう。
「いや、聞きたい事とはそれではない。
盗みをするに当たって、盗品を渡す相手がいるはずだ。
それを教えて欲しい。」
少年の顔から笑顔が消えた。
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