宗教都市:メーヴェ・中編

2/44
3573人が本棚に入れています
本棚に追加
/275ページ
壊れかけた扉を開く。   中からの視線が私に集中した。 こんな柄の悪い店に入って来る物好きなどいない為、少し驚きの混じった視線だ。   店内には男性四人、女性が一人、そして酒場のマスターらしき悪人面の男が一人見える。   私は三歩程入った所で腕を組んで立ち止まり、一同を眺め回して言った。   「カイラスという人物を捜している。 この酒場に居るという情報を得たのだが。 誰がカイラスだ?」   私の言葉に反応し、男が三人無言で立ち上がろうとしたが、 一人立ち上がらなかった男が三人を制して座らせる。   どうやら彼がカイラスの様だ。 長髪に不精髭、着崩した服装に、腰には鞭を提げている。 私の経験から言って、鞭を武器として使う輩に良い人が居た例しが無い。   そしてカイラスは面白そうな顔をしながら口を開いた。   「俺がお捜しのカイラスだ。 男を捜してるなんて変な奴だな? 何か呉れんのか?」   彼の言葉に、取り巻き連中は弾かれた様に笑い出す。   私は無表情を保ったまま用件を伝える。   「…私の大事な物が盗みの被害に遭ってな。 それは無事取り返したのだが、 次の被害を未然に防ぐ事も大事であろう? ここはぜひ黒幕を突き止めて説教してやろうと思ってな。」   カイラスは私の話を聞き、実に楽しげに低く笑う。   「クックックックッ… お前面白いな? 何? 俺を改心させに来てくれたわけ? そいつぁわざわざどうも! だけど無駄足だったな。 改心する理由が無ぇ!」   言って舌を出すカイラスに、私は不敵な笑みを返す。   「…貴様如きに、改心などという高等技術は端から求めていない。 私が聞きたいのは、 『牢屋と墓、入るのならばどちらが好みか?』 という質問だけだ。」   私の挑発に全員が立ち上がった。 女も腰のダーツを手に取り睨み付けて来る。 酒場のマスターは見た目に似合わず戦闘には参加しない様だ。 もしかすると、ああ見えて一般人なのかも知れない。 …自信は無いが。   カイラスは眉の辺りを痙攣させ、手下達に向かって命令を下す。   「あの世間知らずに、裏の世界の厳しさを教育してやれ。 …釣りが出る程たっぷりとな!」   その言葉を皮切りに、手下三人がほぼ同時に躍りかかって来た。
/275ページ

最初のコメントを投稿しよう!