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その三度の攻撃を、私は全て小剣で弾いていた。
そしてそのまま間合いを詰めるべく駆け出した。
距離は歩数にして7歩程度。
「なっ!?
鞭の軌道が見えているのか?」
見えているから弾けるのだ。
カイラスも後ろに退がり始めた為、歩数は残り5歩。
後ろに振りかぶられた鞭がカウンター内の酒瓶を叩き割り、マスターと怪我した女は悲鳴を上げながら避難を開始する。
「く、くそっ!!」
必死の形相で繰り出される鞭の雨を、私は小剣一本で捌き切り、さらに接近する。
残り三歩分だ。
カイラスの背中がカウンターに衝突した。
鞭の弱点。
振り回せる場所でないと使う事すらできない。
私は威力の無くなってしまった鞭の根元を右手で掴み取り封じると、左手の小剣を引き、カイラスの腹部へ狙いを定めて突き出した。
「あ!あ――っ!
ま、待ってくれ!」
左右のカウンター用椅子に挟まれて回避出来ないカイラスは、情けない声を上げて私を制止させる。
私はそれに従ってみた。
「今さら命請いか?
入るならば…
そう言えば答えを聞いていなかったな。
牢屋と墓、どっちだ?」
言いながら小剣を持ち上げ、首筋にゆっくりと当てながら無表情で尋ねる。
カイラスは完全に顔面蒼白になり、半ば悲鳴に近い声で
「ろ、牢屋で頼む!」
と懇願する。
私は武器を手放さぬまま
「了解した。」
と言い剣を引く。
カイラスが安堵の息を吐いた瞬間を狙い、
念の為鳩尾に蹴りを打ち込み気絶させる。
不意打ちに近かった為、カイラスは容易く意識を手放し崩折れた。
私は一度外へ行き、戦闘の邪魔になるはずだと思い外に置いて来たロープを手にし、店内へと戻る。
…違和感に気付いた。
倒れている男四人と、
迷惑そうな顔をしたマスター。
女がいない。
私は顔をしかめた。
確かに『赤い斧』など恐くないが、できればここで事件を終わらせたかった。
だがそれは叶わぬ様である。
あの女は間違いなく組織に泣き付くであろう。
そして、私の人相書きが出回るに違いない…。
私は手早く四人を縛り上げ、
活を入れて目を覚まさせると、
一繋ぎにしてロープの先を持ち、
兵士の詰め所目指して歩き出した。
目を覚ました手下達は暴れようとしたがカイラスの一喝で大人しくなった。
そこで気になっていた事を質問する。
…やはり酒場のマスターは一般人らしい。
人は見かけに依らないものだ。
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