宗教都市:メーヴェ・中編

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彼女はこの近くに専用の部屋を借りる事で商売をしているそうだ。 名前はキティ。 …偽名らしい。   この街で稼いだ金で、故郷に店を出すという夢を持つ、 小柄な女性だ。   部屋の中は意外に清潔で、 彼女の性格を伺わせる。   と、ここまでだ。   私は彼女に幻覚を見せる。   彼女には悪いが、一応襲撃にも備えなければならない為、 後は彼女一人で楽しんでもらう事にする。   私は、幻覚魔術にかかり全身が弛緩した彼女を抱き上げ、ベッドに運び毛布を掛けた。   願わくば良い夢を。   私は窓際に椅子を置き、部屋の明かりを消した。   カーテンを閉め、 その隙間から外の様子を伺う。   居た。   まだ二人組の様だ。 やはり私が街頭娼婦に話し掛けるのを目撃していたのであろう。 私が行為を終えて出て来るのを待っている様だ。   だが残念ながら、 今夜はもうここから出ない。 明日の朝まで根気良く待って頂くしかあるまい。 明日の朝になって人通りが多い時間になったら、尾行を振り切って帰るとしよう。   それにしてもこの状況…。   本の一冊も欲しい所だな。     朝を迎えた。 キティは目覚め、起き上がる。   そして椅子に座った私を見付け、 無言で近寄ると私の膝の上に座り、抱き締めて来た。   「あんた、そんなクールな顔してる癖に凄いんだね。 …あんな事されたのは久し振りだよ。」 と言って胸元に頬擦りして来る。   私は少し慌てた。 彼女が観た幻覚の中で、 一体私はどんな男だったのだろうか? 聞いてみたい気もするが、 聞くのが恐い気もする。   私は彼女の頭を少し撫で、 膝から降りる様に言うと また外の様子を見てみた。   ご苦労な事に、この寒い中張り込みを続けている様だ。 心無しフラついている様にも見える。   キティは風呂に入って来る、と言い風呂を暖め始めた。 その際 「あれ? 何であたし服着てんだろ?   …いつの間に?かな?」   などと言っていたが、 考えてもわからない事は考えない性格なのか、それとも寝相が元々悪いのかはわからないが、気にしない事にしたようだ。   それから一時間後。 私は料金を支払い家を出た。 幻覚の私が何をしたのかはわからないが、すっかり気に入られた様で 「また来てね!」 と笑顔で言われてしまった。   またこんな事が有ったら来る事にしよう。   さて、尾行をなんとかせねばな。
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