宗教都市:メーヴェ・中編

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「起きろ。」   途中で目を覚まして騒いだ為、 再び痛い思いをしてもらった男の頬を軽く叩く。   ここは偶然見付けた無人の納屋。 しかも、使われなくなって久しいらしく埃が積もっている。   目を覚ました男の首元に、小剣の冷たさを感じ易い様に押し当て、脅しの言葉を伝える。   「騒ぐな。 此処を殺人事件の現場にしたくは無いであろう?」   自分の状況を把握した彼は、恐怖からか目に薄く涙を浮かべながら、首の小剣を意識しつつ本当に小さく頷いた。   「他のみんなは…?」   彼の問いに、私は酷薄な笑みを浮かべつつ答える。   「尋問係は一人で充分だ。 そうは思わないか?」   と敢えて誤解を招く言い方をした。 私の返事に、彼は可哀想になる位蒼白になり、言葉にならない何かを口の開閉で表した。   やれやれ、これではどちらが悪役かわからないな…。   「さて、幾つか質問がある。 素直に答えてくれた場合、また眠らされた後、無事解放される。 ここまではいいな?」   男は頷く。   「まず、お前達は 『赤い斧』の構成員だな?」   男は頷く。   「お前は『赤い斧』の本部の場所を知っているか?」   男は少し躊躇っている様だ。   私は首に当てた剣を少し引く。 首に一筋の線が走り、一滴の赤い流れが男の服に滲んだ。   その痛みが男の選択肢を暗示させたのか、慌てて弁明し出す。   「ダメだ! それを話しちまったら組織に消されちまうよ!」   「ならば今死ぬか? 私に話して街を出るのが、唯一の助かる道だと思え。」   私の言葉に男は唸る。   もう一押しだな。   私は懐から金貨を数枚取出し、 男のポケットに捻じ込んだ。   「これは情報料だ。 次の土地では真面目にやれよ?」   男の顔つきが変わった。 よし。 説得に成功した様だ。   私は剣を納め、男の話す 『赤い斧』の本拠地に耳を傾けた。   このメーヴェの街に巣食う大きな組織の本拠地は、どうやら地下にあるらしい。 そしてその首領は、その一番奥に絶えず身を隠しているのだそうだ。   当然腕の立つ護衛が存在し、首領自身も実力者な様だ。   そこは問題あるまい。   私は本拠地への入り方を尋ね、 理解すると縄を解いた。   本当は眠らせる予定であったが、口を割った以上無害と判断した為である。   男は私を警戒しつつも逃げて行った。   さて、 この騒動に終止符を打つ時が来た様だ。
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