宗教都市:メーヴェ・中編

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ここは『国立総合病院』 広大な敷地と優秀なスタッフ達が売りの国立病院だ。 通常の医学、薬学に加え、 魔術医療、呪術医療の研究も盛んに行なわれている研究機関としての側面も持っている。 ここに来れば治らない病気は無いと言われているが、 真偽の程は確かでは無い。 地上部分はほぼ病室であり、地下部分に手術室や魔術室が存在しているらしい。   周囲の景色とはっきり区別されるその白亜の建造物は、 とてもその地下深くに犯罪組織を抱えているとは思えない清廉さを放っている。 事実その事は病院側は知らない、と男は言っていた。 何と皮肉な話であろうか… 人を助け、癒す場である病院と、 人を苦しめ、傷つける犯罪組織が枕を同じくしているのである。 だがそれも今日で終りだ。 私には、何者に対しても生殺与奪の権利は無いと考える。 だから私は殺生は好まない。   だが犯罪組織の首領となれば話は別だ。   生かしておいても、その統率力により再び組織を再興させない訳が無い。 正に百害有って一利無し。 神の法廷以外で裁かれる権利すら無い。   私は『赤い斧』を壊滅させる意志を新たにしつつ、 病院の裏通りへ向かった。     裏通りを挾んだ一見普通の民家。 そこが犯罪組織『赤い斧』の出入口である。 周囲の民家も全て組織の所有物であり、情報規制は万全の様だ。   もちろん表から男達がぞろぞろと出入りしている訳では無い。 裏口から入らなければ出入口に辿り着けない様になっているらしい。 私は裏口に回り、当然の様に敷地内に侵入し、男に教えられた通り裏庭の倉庫へ向かう。   倉庫の扉を開けるとそこには男が二人ポーカーをやっていた。   「なんだお前ぇ。 こんな所に何の用だ?」   そう言って立ち上がる。   私は二人に一瞬で間合いを詰めると、それぞれ当て身を食らわせて地面に転がした。   一応人様の家を訪問するのだ。 確かに来訪目的くらいは述べた方が良いかも知れない。   「…殴り込みだ。」   もちろん返事は無かった。
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