宗教都市:メーヴェ・中編

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倉庫の奥の扉を開けた私を出迎えたのは、長い下りの階段であった。   石で作られた本格的な物であり、予想していた湿度の高さも気になる程ではない。   照明も地下だけに、 魔術による物に統一されている様だ。 この型の照明は、定期的に魔術をかけ直さなければならないのだが、照明の魔術は初歩的な物である為僧侶でなくとも扱う事ができる。   なので組織に僧侶が協力しているとは限らない。 そして定期的と言っても、十日に一度程度である。   下って行った最初の踊り場には扉が設置されており、 開けると男が二つの簡易寝台に一人ずつ寝ていた。 どうやら見張り役の詰め所の様だ。 恐らく非常時の警鐘役を担う物、伝声管辺りが設置してあるはずの部屋なのだが。   見張りは二交替制なのだろうか? これではまるで意味が無い。   こちらとしては好都合である。 わざわざ起こしてまた寝かせるのも愚かしい為、私は静かに扉を閉めた。   そしてまた階段を降りて行く。   この階段。 落盤を防ぐ為か、 踊り場までの距離が長く、そして中々の急斜面だ。   恐らく、病院が地下室を拡張したくなった時に露見する。 などという事にならない様念入りに地下深くに作っている様だ。   二つ目の踊り場を過ぎ、 三つ目の階段の先に扉が見える。   扉の上には看板代わりであろう、赤く塗られた手斧が一本掛けられていた。   兵士に踏み込まれた際には 「魔除けのお守りだ」などと言い白を切るつもりなのだろうか?   私はそんな事を考えつつ階段を下り切り、扉の前に到着した。 これを開ければ本拠地に突入する事ができるわけだが…。 やはりこれは殴り込みな訳だから派手に行くのが王道か? いや、それで落盤など起こしては面白く無い。 だが何らかの外界の様子を探る手段が有って、待ち伏せされている可能性も否めない。 私は少し悩んだ。 …。 ガチャリ。 ドアが向こうから開いた。 「…誰だお前。」 外出する所だったのだろう。 武装していない普通の格好をした男が、扉を押し開けた状態で硬直している。 その男の後ろには数名の男達が続いていた。 ふむ、予想外の展開だ。   これでは『済し崩し的に大暴れ』 以外の選択肢が無いではないか。   私は溜め息を吐きながら、返事の代わりに魔力を収束させた左手を差し出した。
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