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「それもそうだね…。
今度こそ行くよ、リオール。」
「ああ。」
リオールは大剣を抜いた。
そして一瞬浅く沈み込むと、私との十歩程の間合いを瞬く間に詰めて来る。
迅い。
その喋り方とは対照的に、動きは正に疾風迅雷。
爆音からして私が魔術を使用する事を理解しているのであろう。
魔術士に対する戦い方を知執している様だ。
だがそれ、魔術を使う暇を与えない事、を実行するのは容易く無い。
驚くべき身体能力だ。
私が牽制に突き出した左手の射線軸から、リオールはいとも容易く抜け出し、
その回避した動きを利用して、
自身の回転を伴った横殴りの剣撃を放つ。
「…行け!」
それと呼応してネロから放出される十数本の氷の槍。
しかも回避しそうな方向にも攻撃していて隙が無い。
中々巧みな連携だ。
下手をすればこの一合で勝敗が決してしまう程である。
だが、
魔術を使う事を躊躇わない今の私には通用しない。
私は瞬時に右手に魔力を集めて、掌から少し浮いた場所で大剣を受け止める。
硬化した魔力と大剣が激突し、
甲高い音を立てた。
私はそのまま左手で魔力障壁を作成し、氷の槍を防ぐ。
槍は障壁に当り砕け散った。
私が動かなかった為、共に氷槍の襲撃を受けたリオールは、
もちろん当たる訳も無く
軽々と回避し距離を置く。
「ネロ…こいつ強いぞ…。」
「…わかってる。
ちょっと予想以上だけどね…。」
言って険しい顔をする。
そんな相棒を見るのが珍しいのであろう。
リオールは少し驚いた様だ。
私への警戒は解かぬまま、ネロの方に少し近付きつつ問う。
「そこまで…なのか?」
ネロは頷く。
「うん、正直どうやって防がれたか分かんないね。」
そう言って自嘲気味な笑みを浮かべた。
「そうか…。」
リオールは一度目を閉じ、精神を統一すると目を開く。
その時、確かに空気が変わるのを感じた。
リオールは大剣を構え直し、突撃して来る。
それに対応するべく動こうとするも、体が動かない。
見ると、ネロが私に手を向け魔術を行使していた。
魔力を相手に放出し、硬化させる事により動きを封じる、魔力硬化の初級魔術だ。
その硬度は剣で両断される位には柔らかい為、戦士との連携には最適と言える。
動けない為仕方なく、私はリオールと私の間に
目視できる程強固な、
魔力による物理障壁を作成した。
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