動き始めた時間

3/4
前へ
/31ページ
次へ
そぅそぅ、苦労したといえば、お食事ですねぇ。 沖田さんは、本当に食が細くて、、。 いつも、二口、三口食べたら、もぅおしまい。 やはり、食べないと力が付かないじやぁないですか。 ですからねぇ、ちょっとでも食べて貰える様に、色々試してみたもんですよぉ。 まずは、湯漬け、お茶漬け、粥、雑炊。 それが駄目なら、蕎麦、うどん。 その都度変えて試して見ても、やっぱりねぇ、食べる量は、たいして変わらないんです。 食べたい物とか、好物を尋ねて見ても、 「うーん、、そうですねぇ、、、」 なんてねぇ首を傾げて、それでおしまい。 ならばと、おかずも試してみましたよ。 タクアン、お新香、佃煮 色々試してみたんですけどねぇ、、。 どれもこれも今一つでしたねぇ。 一口、二口食べると、箸が止まってしまって、、 あたしがねぇ、そばにいると、ちょっと困ったような顔をして、あと一口、二口位は食べてくれましたけど、、そこまででしたねぇ。 あぁ、でも卵焼きは、少ぉし余計に食べてくれましたっけ。 あぁ卵焼きって言ってもね、お店で出すような、立派なやつじぁありませんよぉ。 近在の者がねぇ、何日に一度か売りにくる卵。 それをねぇ、一度に三つとか使ってねぇ、あたしが焼くんです。 砂糖とか、味醂を加えて甘味を強くして焼くんですよぉ。 まぁ、素人料理ですからねぇ、売り物みたいに、きれいに、かっこよくなんてぇのは出来ませんでしたけど、味の方は、なかなかだったと思いますよぉ。 焼き上がった卵は、熱いうちに包丁を入れて、二つか、三つに切り分けてから出すんですが、、。 えぇ、本当はねぇ、お侍さん相手に『三切れ』なんてねぇ、、 『三切れ』は『身切れ』で縁起が悪いって、嫌がる人も多いって事はねぇ知ってはいますよぉ。 でもまぁ、なにより食べやすい方がいいと思いましてねぇ。 三切れの時も、知らん顔で出してましたよぉ。 沖田さんも、特に何も言いませんでしたし、、。 もっともねぇ、心の中じゃ、 『何も知らねぇバァさんだな』 なんてねぇ、苦笑いしてたかも知れませんねぇ。 あぁ、話しが逸れちまいましたねぇ。 結局ですねぇ、色々試してみて、一番は食べてくれた物、、。 なんだったと思います? それは『おにぎり』でしたよ。 えぇ、おにぎりって言ってもねぇ、お饅頭位の大きさの、小さいやつですよ。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

211人が本棚に入れています
本棚に追加