動き始めた時間 その二

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冬の様に寒い日が、二日ばっかり続いたって事もあったんでしょうけど、 その日は朝から沖田さん、少しばかり熱っぽくて、元気がありませんでしたよ。 いつにも増してねぇ、食欲はありませんでしたねぇ。 日課の木刀振りの鍛練なんかも、当然おやすみです。 そして、昼を過ぎた辺りから、熱はだいぶん治まったんですが、少ぉしねぇセキが出始めましてねぇ。 えぇ、ちょうどねぇ平五郎親方が将棋を指しに来られてたんですよ。 親方も忙しい方でしたから、毎日って訳にはいきませんでしたけどねぇ。 それでも、ちょっとでも時間が出来ると、離れまで来られて、話し相手になったり、将棋を指したりされてましたよ。 話しの内容ですか? 他愛もない世間話ですよぉ。 『近所でこんな事がありました』 ですとか 『どこそこで、なんとかが評判になっている』 とか、まぁそんな感じでしたよぉ。 『薩長がどうだ』 とか、 『お上がどうだった』 とか、そんな話しはねぇ、病気に障るかもしれないからって、止められてましたから。 将棋の方は、三回指せば二回は親方が勝ってましたねぇ。 残りの一回も、親方が気を使って、わざと負けていたみたいでしたねぇ。 親方に言わせると、 「小細工とか搦手とか、全く使わないから、手が読みやすい」 って言ってましたねぇ。 やっぱり、人柄ってぇのが出るもんなんですかねぇ。 まぁそんな感じで、いつもの様に将棋を指していたら、時折ねぇ、こんな風に口元に手をやって、顔を横に向けて、一、二回咳込むんです。 『咳込む』って言ってもねぇ、いかにもなセキじゃありませんよぉ。 ちょいとばかり喉の具合が悪い時なんかにでる、その程度のやつです。 「おや?沖田さん、風邪ですかい?」 なんて言いながら、親方が心配そうに覗き込むんですが、 「あぁ、、大丈夫、大丈夫ですよ」 なんてねぇ。感じは普段とたいして変わらないですが、やはり心配じゃあないですか。 「沖田さん、、今日はこの辺で、、もうおやすみになられた方が、よろしいんじゃ、、」 親方もねぇ、そんな感じで切り上げようとしたんですがねぇ。 「ダメですよぉ!せっかく私が勝てそうなのに、、、ずるいですよぉ!」 なんてねぇ、本気で拗ねたような顔をするんですよ。 まぁ、あたしはねぇ、将棋の事は、とんとわかりませんし、、。
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