出会い

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えぇ、平五郎の親方から、その話を聞かされたのは慶応四年の二月の始めくらいだったと思います。 いつもは気さくな親方が、えらく気難しい顔してましてねぇ。 こぅ腕を組んだり、キセルを弄ってみたりして、なかなか話してくれないんで、あぁ何か厄介事なんだなぁって察しはつきましたよぉ。 さすがに。で、あたしの方から、親方に聞いてみたんですよ。 そしたら 「ある人の世話を頼みたい」 って言うんですよ。 最初は、なんだそんな事ってねぇ思いましたよぉ。 そしたら、『その人』っていうのが新選組の偉い人で、しかも重い労咳に罹っているって聞かされた時は、さすがに驚きましたよ。 新選組なんて、人斬りの怖い人達の集まりだと思ってましたし、、。 ましてや、そこの偉い人なんていったら、きっと鬼みたいな怖い人なんだろうって、勝手に思ってましたよ。 そしてなにより『労咳』。 そりゃ怖いですよ。 何せ、伝染(うつる)病気ですもの。 だから親方も、 「事情が事情だから、嫌なら断ってくれ」 って、言われましたけどね、結局その場でね、お受けする事にしたんですよ。 どうしてって聞かれるとねぇ。 まぁ身寄りも無いし、お世話になってる親方のたっての頼みって事もありましたけど、怖い物見たさって気持ちはどっかにあった気がします。 で、早速翌日からお世話に伺う事にしたんです。 確か、昼前でした。えぇ、親方のお宅の離れです。 伺う直前にねぇ、初めて『沖田さん』だって教えられたんですよ。 えぇ、もちろん名前は知ってましたよ。 『池田屋』の事はこっちでも有名でしたから。 そりゃ緊張しましたよ。 失礼があったら大変だって。 「失礼いたします」 なんて柄にもなく、大人しく襖を開けたら、布団はもぬけの殻。 障子は開けっ放し。 その先に目をやると、ひょろっと背の高いお侍さんが木刀構えて立ってるんです。 えぇ、とても御若く見えましたから、てっきりお付きの方だと思いましてね。 「沖田先生はどちらに?」 って伺ったら、そのお侍さん、ちょっと困ったような顔して、 「先生かどうかは知りませんが、私が沖田です。」 って言われた時にはびっくりしましたよぉ。 勝手な思い込みですが 『新選組の沖田総司』 は、もっと年配の方だと思ってましたから。 何はともあれ、これが私と沖田さんとの出会いでした。
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