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この日は、どういう訳だか、夜半過ぎに、不意に目が覚めたんです。
えぇ。こんな事、滅多にありませんよぉ。
とにかく、パッと目が覚めたと思ったら、なんだかねぇ。
妙ぉに落ち着かない気分になって、なぁんか眠れなくなってしまいましてねぇ。
今考えると、なんかが知らせてたって事だったんでしょうけどねぇ。
その時は、
『何だろう?』
『どうしたんだろう?』
ってねぇ。
そうこうしてるうちに、隣の部屋で、沖田さんが咳込むのが聞こえてきました。
そんなにひどいやつじゃありません。
二、三度咳込むと、しばらくは落ち着いて、大分経ってから、思い出したみたいにまた、二、三度咳込む。
そんな感じでしたよぉ。
ところがねぇ、段々咳込む間隔が、短くなって来るんですよぉ。
咳自体もねぇ、悪い感じの咳が混じり始めましてねぇ。
これはいけないって、急いで沖田さんのところに行かなきゃって思いましてね。
もぅ跳び起きたんですけど、何しろ真っ暗ですから、とにかく明かりをって思ったんですがねぇ。
こんな時に限ってねぇ、なかなか明かりが灯らないんですよぉ。
その間にもねぇ、沖田さんの咳は、どんどん酷くなっていくんです。
もぅ気ばかり焦ってしまって、、。
やっと明かりが灯ると、もぅ本当にねぇ、転がり込む様に部屋に入りましたよ。
薄暗い明かりの向こうに布団の上に、突っ伏す様に、深く頭を下げた沖田さんの姿が見えました。
「沖田さん!」
大声で呼びかけたあたしの声に、沖田さんは顔を上げようとしました。
そして、何かを言いかけて、大きく、、咳込みました。
それは、、今まで聞いた事がない様な、、
一瞬、その場で動けなくなってしまう程の、、。
とても、、。
えぇ、とても嫌な咳でした。
体を起こしながら、こぅねぇ、手を口元に当てているその指の隙間。
そっから、黒っぽい何かが流れ落ちるのが見えました。
『血だ!』
そう思ったらねぇ、急に首筋から、背中の方に冷たい物が滑り落ちていくのを感じました。
情けない話ですが、もうその瞬間から、動けないんですよ。
えぇ、声も出ない。
頭の中が真っ白になるってのは、、あぁいう事を言うんですねぇ。
あたしが知る限り、初めての『吐血』でした。
『労咳』が、そぉいう病だってのは知ってましたよ。
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