永い夜が明ける頃 その二

2/3
前へ
/31ページ
次へ
お恥ずかしい話ですけど、その後『いつ』『どうやって』部屋を出たのか、まったく覚えていませんよ。 ハッと気がついたら、部屋の外で座り込んでいましたよ。 「沖田ぁ!この野郎っ!!しっかりしやがれっ!!」 なんて良順先生の怒鳴り声と、慌ただしく動き廻っている気配が、部屋の外にもはっきり伝わってきました。 先生が来てくださったから大丈夫! そう思ってもねぇ、やっぱりねぇ。 不安な気持ちが、全部消えてしまう訳じゃあ無いですよ。 人ってのは、どうしようもなくなると、つい手を合わせてしまうもんなんですねぇ。 あたしも懐からお数珠を出して、そりゃもう夢中で手を合わせましたよ。 まぁいい歳をして、あれなんですけど、あたしは神様とか仏様は、あんまり熱心に信じてはいませんでしたから、、。 さすがに、お数珠は持ってますけど、お念仏なんかは、もう全然デタラメで、、。 ただもう、 神様、仏様!あぁ、、どんな神様でもいいから、とにかく沖田さんを助けて下さい!! ってねぇ。 まぁ、神様から見たら罰当たりなお願いの仕方なんでしょうけどねぇ。 ただね、それまでの人生で、一番、、真剣に神様に手を合わせましたよ。 お祈りしましたよ。 えぇ。 なんせ、あの時には、、 それしかできませんでしたもの。 だから、、一心不乱に、、ただただひたすらにねぇ祈り続けましたよ。 どのくらいそうしていたのか、、わかりません。 とても長かったような、、。 とても短かったような、、。 今思い出そとしても、はっきりしませんねぇ。 そうこうしてるうちに、なんだか呼ばれた気がしましてね。 目を開けてみました。 するってぇと、いつの間にか襖が開けられていて、目の前に人の足があるんですよ。 恐る恐る顔を上げると、良順先生でしたよ。 さすがに幾分、疲れが目立つお顔でしたが、あたしと目が合うと、ニッコリと笑われましてね。 「なんだ、婆さん。こんなところで待ってたのかい?」 ってね。 ええ、、とっても優しい笑顔でしたよ。 あたしときたら、沖田さんの事を聞きたいのに、、もう全然言葉が出てこないんですよ。 気がせいていていたんでしょうかねぇ。 もぅ、あーとか、うーとか、、ちゃんとした言葉が出てこないんです。 情けない話ですよぉ、、本当に。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

211人が本棚に入れています
本棚に追加