211人が本棚に入れています
本棚に追加
えぇ、本当にこの頃の沖田さんは、はたから見ていると、重い病気を患っているようには見えませんでしたよ。
確かに少し熱を出したり、咳込んだりはありましたけど、血を吐いたりはありませんでしたし。
ほとんど毎日ねぇ、昼前には素振りをしたりしてましたよ。
この時ばかりは、いつも笑ってるような顔をしていた沖田さんも、真剣な顔をしてましてねぇ。
こぅ腕と背筋をすっと伸ばして構えると木刀の先っぽがねぇ、丁度、目の高さにピタっと決まるんですよぉ。
そこから振り上げ、踏み込みながら振り下ろすんです。
そうすると、今度は木刀の先っぽが、おへその高さ位で、ピタって止まるんです。
そこから引き戻しながら構えて、振り下ろす。
この繰り返しです。
決してね、早い動作じゃないんです。
これは『正確さの鍛練』で、『速く刀を振るう鍛練』より大切なんだと聞いた事があります。
私は、『剣の道』も良し悪しも判りませんけど、この動きは綺麗だなぁって思いながら見てましたよ。
なんかねぇ、すごく自然なんです。
普通の倍くらいの太さの木刀を使ってたんですけど、全然重そうに見えましたでしたよ。
毎回、同じ位置に吸い付いたみたいに止まって、わずかな揺れもないんですよ。
それをねぇ、二、三十回位してました。
その頃の私は、それが普通なんだと思ってたんですが、後で元気な頃を知っている人に聞いた話だと、百や二百なんて楽にこなしていたそうです。
本当に元気だった時の半分も出来ない位ねぇ、身体は弱っていたんですねぇ。
この頃の沖田さんには、いつもねぇ、ニコニコ笑っていた、そんな印象しか残ってません。
辛いとか、苦しいとか、、そんな様子は全く見せませんでした。
『重い労咳』だなんて、何かの間違いじゃないか?って本気で思いましたよ。
今なら判りますが
『辛かった』
と思います。
『苦しかった』
んだと思います。
あの時ねぇ、その事に気付けなかった自分が、情けなくて、悔しくて、、申し訳なかったって、、今でも後悔しているんです。
最初のコメントを投稿しよう!