良順先生 その二

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「よぉ!沖田ぁ!」 なんてねぇ、先生は本当に近所の顔見知りが来たみたいな気安さで、部屋に入るとそのまんま、どっかりと沖田さんの脇に腰を下ろされましてねぇ。 「なんでぃ!思ったより元気そぅじゃねぇか!」 なんて言いながら、本当に嬉しそうな顔で、沖田さんの顔を覗き込むと、 「おっ?やっぱりこっちの水が合うのかねぇ? だいぶん、顔色がマシになったじゃねぇか」 なんて言いながら、布団の上で身を起こしていた沖田さんの肩とか、腿の辺りを何度も、何度も叩くですよぉ。 ぱんっ!ぱんっ!!って音がするくらい。 もぉ見ているこっちがハラハラもんでしたよぉ。 沖田さん本人は 「先生、痛いですよ」 なんて言いながら、全然嫌そうじゃないんです。 むしろ嬉しそうで、、。 その時にねぇ、気がついたんですよぉ。 『病人扱い』されてないのが嬉しいんだって。 あたしはねぇ、、まぁ多分、親方なんかもそうだったと思うんですけど、どぉしてもねぇ、変に、気を使ってしまうんですよぉ。 なるべく普通にって思っても、やっぱりねぇ、頭のどっかに、この人は『重い病人』なんだってのがあったんでしょう。 だから沖田さんには、心苦しい思いをさせてしまった事もあったんだと思います。 先生はねぇ、全然作った風が無いんです。 とにかく、よく笑ってられましたよ。 カッカッカッ!って大きな声でねぇ。 またなんとも笑い方が小気味よくって、ついこっちまでつられて笑ってしまう。 そんな感じでした。 「鰻の旨い店を見つけたから今度一緒に喰いに行こう」 「もちろん先生の奢りですよねぇ?そいつは楽しみだなぁ」 「こいつめぇ!」 なんて言い合いながら、また二人して笑うんです。 脈を取ったり、具合を尋ねたりとかはねぇ、一切無しです。 ただ、他愛のない話をしている。それだけです。 そんな様子を見てると、なんだか仲の良い兄弟みたいに見えましたよ。 そうそう!先生ときたら、あたしの事を『ばぁさん』ってねぇ呼ぶんですよぉ。 「おぃ!ばぁさん!茶をくれねぇか?」 「ばぁさん!もう一杯くれ!」 ばぁさん!ばぁさん!って、もう何度も何度も。 沖田さんも最初のうちは 「先生、『ばあさん』は可哀相でしょう?」 なんて言ってくれたんですけど、しまいには沖田さんも面白がって、先生と一緒に『ばぁさん、ばぁさん』って、、。 本当に、、ねぇ? ですけどね、これがきっかけでねぇ沖田さんとの
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