~人は味を覚えれば繰り返す~

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 部下を引き連れ今日はちょっとした悪さをしようと思った。これとい う理由はない。やりたいからやるのだ。理由などはなかった。本能に従 えば、それでいいのだ。部下のジョンが梯子を登っていく。高い塀を越 えた向こう側にある警察署の屋根にあがり、窓から催涙弾を投げ込むと いう他愛も無いことだ。ジョンが梯子を登っていく。塀はゆうに頭をこ え、これでもかという高さまである。ジョンが登るたびに梯子は小さな 悲鳴をあげて小刻みに揺れる。私の中で目覚めてはならない、なにかが 殻をやぶろうとしていた。震える右手を左手で押さえる。左手の爪が右 手に食い込み、血が滴る。それでも右手の力は押さえきれるものではな かった。なにかが、殻をつつき、破った。それと同時に、私の右手は梯 子を掴みとって引っ張った。ジョンが小さく声をあげ、頭から落ちた。 嫌な音がした。いや、「快楽」の音だったか。コンクリートに赤いワイ ンが流れ、私の心臓は激しく波打った。こんなに楽しいことが他にある だろうか。私は「殺し」の味を覚えると共に、ルシファーの元に忠誠を 誓った。ルシファーは私の耳にささやいた。殺しと快楽は結びつくのだ。
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