0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
部下を引き連れ今日はちょっとした悪さをしようと思った。これとい
う理由はない。やりたいからやるのだ。理由などはなかった。本能に従
えば、それでいいのだ。部下のジョンが梯子を登っていく。高い塀を越
えた向こう側にある警察署の屋根にあがり、窓から催涙弾を投げ込むと
いう他愛も無いことだ。ジョンが梯子を登っていく。塀はゆうに頭をこ
え、これでもかという高さまである。ジョンが登るたびに梯子は小さな
悲鳴をあげて小刻みに揺れる。私の中で目覚めてはならない、なにかが
殻をやぶろうとしていた。震える右手を左手で押さえる。左手の爪が右
手に食い込み、血が滴る。それでも右手の力は押さえきれるものではな
かった。なにかが、殻をつつき、破った。それと同時に、私の右手は梯
子を掴みとって引っ張った。ジョンが小さく声をあげ、頭から落ちた。
嫌な音がした。いや、「快楽」の音だったか。コンクリートに赤いワイ
ンが流れ、私の心臓は激しく波打った。こんなに楽しいことが他にある
だろうか。私は「殺し」の味を覚えると共に、ルシファーの元に忠誠を
誓った。ルシファーは私の耳にささやいた。殺しと快楽は結びつくのだ。
最初のコメントを投稿しよう!